『カルト・ワイン』考

『HIGH & LOW』の配役も出ましたが、しつこく未だにカルトワインのことを考えています。なんてカルト的な作品…

 

栗田先生がシエロとフリオを対の存在として描いていることは明らかですが、チャポとフェンテス氏もまた、それぞれの“ifの未来”となるのではないかと私は考えています。

 

シエロ・アスールとチャポ・エルナンデス

まず2人の共通点としては、ホンジュラスのマラス「コルミージョ」に所属していたということ。シエロは左腕、チャポは胸元にメンバーの証であるタトゥーを入れています。シエロは胸元にも別のタトゥーが入っています。(太陽…?)

シエロは下っ端として、薬の仕分けやみかじめ料の回収を担当していました。いざ組織内での昇格の条件として殺人を命じられ、しかもその標的は親友フリオの父親…もちろん実行出来ず、シエロはフリオの家族と共にアメリカへの亡命を目指す、という所が作中で描かれています。

チャポはどうでしょう。「俺はもう抜けてるよ」という台詞から、アメリカでシエロたちと出会った時点では直接的な繋がりは無いと断言出来ると思います。(グレーなお仕事内容なので間接的にはあるかもしれませんが笑)組織の内部体制にも通じていそうな発言から、現役時代にはそれなりの地位を築いていた可能性もあります。

私は、チャポはシエロと違って組織に追われる心配もなく双方合意の上で一旗揚げにアメリカ入りしたのでは、と想定しています。年齢的にも出会いの時点で45歳(ナウオンより)、10代でマラスとなったとして10年程下地を築いて30歳前後にアメリカへ、ペット事業に着手してチェーン展開を広げ、業界でも名の通った実業家として大成するまでに更に10年程…なんとなく辻褄の合いそうな気がします。

もしシエロが、あの時にフリオの父親を撃ってしまっていたら。

コルミージョから逃げる理由もなく、フリオ達と危険な旅路を辿る必要もなくなります。

シエロは愛嬌と度胸があり、上手く「立ち回る」ことを考えた行動を取れることが描写されています。アマンダがシエロに対して好意を持っているとはいえマンツーマンで仕事の合間にテイスティングを教えてもらえていたり、危機的状況の中でもふてぶてしくチャポにも気に入られる態度、ミラにオークションへの出品話を持ちかけさせる巧みな話術…

これらのシエロの持つ機転はマラス社会においても彼を守る武器となり、組織内での立身出世に役立つと考えられます。そして十分な立場を築き、アメリカン・ドリームを掴むために仲間たちに快く見送られて新天地へと旅立つ…近しい場所で育ったとはいえ、親友の妹のために迷わず自らを危険に投じるシエロ、元来面倒見のいい男なのでアメリカでもやんちゃな少年を拾っては手懐け舎弟を増やしつつ一大企業を築きあげるのではないでしょうか。

ビジュアル的にもシエロとチャポは同じ黒髪の癖毛ですし、1幕でチャポが着ているブルーのスーツと、2幕でカミロとしてシエロが着ているダークグレーのスーツはどちらもペイズリー柄。何かあるのでは、とつい勘繰ってしまいます…

つまり、「チャポ・エルナンデス」はシエロが親友フリオと道を違えた未来の姿の面もあると考えています!

 

フリオ・マラディエガとカルロス・フェンテス

こちらの2人については、「シエロ=チャポ」を前提として考えたいと思います。

シエロに父親のディエゴを撃たれてしまったら、フリオは。

取立てはこれまで同様に続くでしょう。以前はシエロが庇ってくれていましたが、フリオはそれを忌避すると思います。実家の食堂の稼ぎだけでは支払が間に合わずクラブでアルバイトをしていたフリオなので、状況はこれまでよりも厳しくなるかも。病弱で「女子供」と形容されるモニカに働かせることも、フリオは許さないでしょう。作中でもアメリカ行きは突発的ではなく、前々から誰に打ち明けずとも考えていたような様子が見られます。ただ1人残された家族の手を取って、アメリカを目指すのではないでしょうか。

そして、フリオとフェンテス氏の共通点としてあるのは「料理」です。

フリオは鋭敏な味覚を持ったシエロに太鼓判を押されるほどの料理の腕前を持ち、フェンテス氏は一つ星レストランのオーナー。成功した今でこそオーナーですが、始まりは小さなお店から自ら腕を奮っていたのでしょう。

フェンテス氏は「移民の星」とも呼ばれる人物です。南米系(恐らくメキシコ)の移民でありながらアメリカで一つ星評価を得る経営手腕と、似た境遇の人々にも喜んで手を差し伸べ力になってきた人柄を慕われての言葉だと感じます。屋台の店長も「世話になった」と語っていましたし、娘を暴漢から救ってくれた若者2人をその場で雇ってくれる懐の深さです。その内の1人が高級ワインを盗み出し突然姿を消しても、その片割れを変わらず雇い続けゆくゆくは娘と支店を任せようというほどの、お人好しとも取れる人物と見えます。

フリオも幸せそうな親子の姿を嬉しそうに眺めていたり、向こう見ずで危ういシエロを常に我が事のように心配しています。栗田先生からも、フリオはどこまでもいい人として演じて欲しいというオーダーがあったと語られていました。(ナウオンより)

シエロと離れてアメリカへやって来たとしても、モニカのために身を粉にして働き持ち前の優しさと人徳で味方を得て、地道に努力を重ねて成功を掴むのではないでしょうか。

つまりフェンテス氏もまた、フリオがシエロと離れて進んだ未来の姿として見ることもできるのではないかと考えます!

 

チャポ・エルナンデスカルロス・フェンテス

この2人は作中での絡みはありませんが、第2幕第4場と第5場の転換で対比されています。(チャポの「覚悟を決めろ」とフェンテス氏の「覚悟は決まったか」)

面識があったとしてもおかしくはないなぁと思っています。一つ星レストランならグランピーガイズのワイン会開催場所として選ばれている可能性が高いし、あれほどの上客が集う場であればオーナー直々に挨拶をしに来ることもあるでしょう。

チャポから「カミロ・ブランコ」として生きるチャンスを与えられたシエロと同様に、フリオもフェンテス氏からチャンスという名のギフトを贈られました。見習いシェフとして厨房入りのチャンスを与えられ、努力と実力を認められ支店のチーフシェフとして成り上がります。

シエロを詐欺師として育て上げたチャポと、フリオを料理人として導いたフェンテス氏。

それぞれの歩んだ10年が気になります!

 

別々の道を歩んでも、それぞれ大実業家として、高級レストランのオーナーとして再会するシエロとフリオ…こんなアナザーストーリーも見てみたいなぁと思います笑

 

どの角度からも楽しめて味わい深い作品…もし本当に何も残らないなら惜しすぎます💦

映像無いならルサンク出して…栗田先生小説書いて…😂